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福島地方裁判所 昭和51年(ワ)230号 判決 1981年4月08日

原告

渡辺晋七

ほか二名

被告

福島県

ほか三名

主文

被告らは各自原告渡辺晋七、同渡辺啓子に対しそれぞれ金六五〇万七七一〇円及び内金五九五万七七一〇円に対する昭和五一年一月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告らは各自原告三浦晧征に対し金一三二万四六一九円及び内金一二〇万四六一九円に対する昭和五一年一月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告三浦晧征の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用中、原告渡辺晋七、同渡辺啓子と被告らとの間に生じたものは被告らの負担とし、原告三浦晧征と被告らとの間に生じたものはこれを二分し、その一を原告三浦晧征の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決の第一、二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告らの請求の趣旨

1  被告らは各自原告渡辺晋七、同渡辺啓子に対しそれぞれ金六五〇万七七一〇円及び内金五九五万七七一〇円に対する昭和五一年一月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは各自原告三浦晧征に対し金二五一万一二一三円及び内金二三一万一二一三円に対する昭和五一年一月一七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  仮執行免脱宣言(被告国、同福島県)

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  昭和五一年一月一六日午後五時三五分頃、伊達郡月舘町大字御代田字大平三二番地付近の国道三四九号線路上において、訴外渡辺俊雄(以下俊雄と略称)が原動機付自転車を運転して右国道を霊山町小国方面から月舘町方面に向い走行中、対向進行してきた被告菊地久男(以下被告菊地と略称)運転の木材を積載した貨物自動車(福島一一や二四三五 以下被告車と略称)の木材を結束していたワイヤーロープが道路上につき出ていた道路脇の樹木に当つて切れ、木材が俊雄の頸部等に落下し、よつて同人は死亡した。

2  原告三浦晧征(以下原告三浦と略称)は、右日時場所において普通乗用車を運転し、被告車に追従して月舘町方面から霊山町小国方面に向い走行中前記積荷の転落事故により落下した積荷に追突し、よつて頸部捻挫の傷害を受けた。

3  被告らの責任

(一) 被告伊藤弘義(以下被告伊藤と略称)は被告車を業務用に使用し自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条による運行供用者責任がある。

(二) 被告菊地は、積荷の転落事故が発生しないように積荷の高さを所定の制限内に止めておくべきところ、右制限を超えて積荷を積載し、かつ前方注視を怠つて進行した過失により路上につき出ていた樹木に右積荷を接触させそのため積荷をとめていたワイヤーロープが切れて積荷を落下させ本件事故を惹起したものであるから民法七〇九条による不法行為責任がある。

(三) 被告国は道路管理者として本件道路につき各種車両の運行に支障のないよう十分管理をなすべきところ、車両の運行に支障をきたす前記樹木の撤去を怠つた瑕疵によつて本件事故が発生したものであるから国家賠償法二条一項、民法七一七条一項により責任がある。

(四) 被告福島県(以下被告県と略称)は本件道路の管理の費用の負担をなす者であるから国家賠償法三条一項による責任を負う。

(五) 被告大河内仁一(以下被告大河内と略称)は国道を通行する各種車両の運行に危険を及ぼすおそれのある本件樹木を占有及び所有し、月舘町役場等を通じて再三右樹木の切除方を要請されていたのにこれに従わず撤去を怠つたことにより本件事故が発生したものであるから民法七一七条二項による責任がある。

4  原告渡辺晋七、同啓子の損害

(一) 慰謝料 金七〇〇万円

(二) 死亡による逸失利益

俊雄は当時大学生であつたが、卒業後第一年目は昭和五二年賃金センサス(全産業男子大学卒二〇ないし二四歳の平均賃金)による年収一六六万五三〇〇円、第二年目以降については昭和五三年賃金センサスによる年収一七三万一一〇〇円を得たものとみるべきであり、就労可能年数を大学卒業時の二二歳(俊雄の生年月日昭和二九年一二月八日)から六七歳まで四五年間とし、生活費を収入の五〇パーセントとみてホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して現価を算出すると金一九五一万五四二一円となる。

(三) 葬式費用 金四〇万円

(四) 弁護士費用 金一一〇万円

前記(一)ないし(三)の合計金二六九一万五四二一円から後記(五)の一五〇〇万円を控除した金一一九一万五四二一円の一割を超えない額

(五) 損害の填補 金一五〇〇万円

自賠責保険からの填補額

(六) 原告渡辺らは俊雄の父母であり、俊雄の取得した損害賠償請求権を二分の一各金六五〇万七七一〇円づつ相続した。

5  原告三浦の損害

(一) 慰謝料 金一五〇万円

(二) 治療費 金一九七万六九八三円

保原中央病院入院二〇四日、通院三七八日(実日数二〇三日)の治療に要した費用

(三) 入院雑費 金一〇万二〇〇〇円

右入院中に要した諸雑費

(四) 休業損害 金一八〇万九二一三円

原告は当時一日平均二五五九円の賃金を得ていたところ、本件事故による負傷のため昭和五一年一月一六日から昭和五二年一二月二四日までの七〇七日間休業を余儀なくされ、その間の得べかりし利益を失つた。

(五) 弁護士費用 金二〇万円

(六) 損害の填補 金三〇七万六九八三円

(七) 差引合計 金二五一万一二一三円

6  よつて被告らに対し各自、原告渡辺両名に対し各金六五〇万七七一〇円及び弁護士費用を除いた内金五九五万七七一〇円に対する昭和五一年一月一七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告三浦に対し金二五一万一二一三円及び弁護士費用を除いた内金二三一万一二一三円に対する右同日から完済まで同じく年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  原告らの請求原因に対する被告伊藤、同菊地の認否

1  請求原因1項の事実中交通事故の態様は否認し、その余は認める。

2  同2項の事実中交通事故の態様は否認し、原告三浦が受傷したことは不知、その余は認める。

3  同3項の(一)のうち被告伊藤が被告車の運行供用者であることは認める。

同項(二)の事実中被告菊地が被告車を運転し、同車に積載していた積荷が路上を塞いでいた樹木に衝突してワイヤーロープが切れ、積荷の木林が崩れ落ちて俊雄に当たり同人が死亡したことは認めるがその余は争う。

本件事故は不可抗力によるものであつて、被告菊地伊藤に何らの過失もない。

即ち本件道路の路肩から一・二メートルの所に被告大河内所有のくるみの木が生育していたがその幹は道路上〇・八メートルの高さのところから徐々に国道を覆うような状態にあり、路上約三・四ないし三・六メートルの高さの幹には自動車の積荷が衝突した痕跡が多く運転者達から道路管理者である被告県やくるみの木の所有者被告大河内に右樹木の伐採や除去を求められていたものである。

被告菊地には被告車の積荷が右樹木に衝突すること、またその結果ワイヤーロープが切れることはいずれも到底予見できなかつたものである。

4  同4項の事実中(五)は認め、その余は争う。

5  同5項の事実中(六)は認め、その余は争う。

6  同6項は争う。

三  原告らの請求原因に対する被告国、同県の認否

1  請求原因1項の事実中事故の態様は不知、その余は認める。

2  同2項の事実中事故の態様及び原告三浦が負傷したとの点は不知、その余は認める。

3  同3項(三)、(四)の事実中被告国が道路管理者として本件道路を管理していること被告県が本件道路の管理費用を負担していることは認めるが、その余は争う。

(一) 本件樹木は被告大河内の所有であり同人所有の土地から生育していたものであるが、本件道路の車道左側端で路面から三メートル、同側端から〇・三メートルの地点で路面から三・六五メートルの位置につき出して上方に生育しているので普通自動車の運行については全く支障がなく、大型自動車の一部について若干の支障があるにすぎない。

(二) 本件道路は道路構造令の適用がない未改良道路であつて、同令の基準を欠くことをもつて直ちに道路の管理に瑕疵ありということはでない。

また本件道路は総幅員五・四五メートル(車道幅員四・四五メートル)で歩車道の区別がなくセンターラインも施されていない簡易アスフアルト舗装道路で見通しがよく本件樹木の発見は容易であり、右道路の状況からして、一部本件樹木によつて運行に支障のある大型自動車も道路左側端から〇・三メートル中央に寄つて進行することにより何ら支障を生じないで通過できる。

かつ本件道路の通行量は少ない。

(三) 本件事故は被告菊地が積荷の最大積載量を超過して積載しかつ前方注視を怠つた重大な過失により惹起されたものであつて被告国らに道路管理上の瑕疵はない。

(四) 被告県は月舘町役場等を通じて被告大河内に対し本件樹木の切除を再三要請したが同人がこれをきき入れず被告大河内に対し本件樹木を強制的に除去させる手段もなかつたため切除できなかつたもので被告国らに道路管理上の瑕疵はない。

4  同4項の事実は不知

5  同5項の事実は不知

6  同6項は争う。

四  原告らの請求原因に対する被告大河内の認否

1  請求原因1項の事実は不知

2  同2項の事実は不知

3  同3項(五)の事実は否認する。

(一) 本件樹木の生育している伊達郡月舘町大字御代田字大平二三番の二(地目田)は、大正九年六月五日被告国が被告大河内仁一の祖父大河内勝次郎から「上地」によつて取得し、同年七月二八日所有権移転登記がなされたもので国の所有であり、同地上の本件樹木の所有権も被告国に移転している。

(二) 仮に本件樹木が被告大河内の所有であるとしても、同被告に本件樹木の栽植管理に瑕疵はなかつた。

即ち、大正九年六月に前記のとおり被告国が前記二三番の二の土地を上地取得した頃に本件道路の拡幅がなされたことによつて本件樹木が道路ぎわに存することになつたものであり、更に昭和四六年七月二八日頃の本件道路の舗装工事によつて路面が四五センチメートルも嵩上げされたことによつて積載違反の車の積荷が接触する危険性を生じたものである。

(三) 本件事故は被告車が積載制限違反の積荷をして必要以上に路肩に寄りすぎたことによるもので被告大河内にとつては不可抗力の事故というべく、同被告に責任はない。

4  同4、5項の事実は不知

5  同5項は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告らと被告伊藤、同菊地、同国、同県との間において、昭和五一年一月一六日午後五時三五分頃伊達郡月舘町大字御代田字大平三二番地付近の国道三四九号線路上において、被告菊地運転の木材を積載し走行中の貨物自動車(被告車)の積荷が崩落し、その崩落した木材が折から同所を原動機付自転車で進行中の訴外渡辺俊雄に衝突し、また原告三浦運転の自動車に衝突する交通事故が発生し、右俊雄が死亡するに至つたことについては当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一、第三号証、甲第四号証の一ないし五によれば右の事実は明らかであり(但し後記五認定のとおり本件事故現場の南側は同所二三番地である)また原告らと被告伊藤との間において同被告が被告車の運行供用者であることについては当事者間に争いがなく、原告らと被告国、同県との間において、被告国が右国道の管理者であり、被告県が管理費用を負担するものであることについても当事者間に争いがない。

二  前出甲第三号証、成立に争いのない甲第四号証の七、弁論の全趣旨により昭和五一年一月一七日本件事故現場付近を撮影した写真であると認められる乙第一号証の一ないし六、証人星重光、同植野定雄の各証言及び検証の結果によれば、本件事故現場である前記月舘町大字御代田字大平二三番地付近国道三四九号線道路は、ほぼ東西に通ずるアスフアルト舗装された歩車道の区別のないほぼ直線の道路で、東方川俣町方面から西方福島市方面に向い上り勾配となつていたこと、道路の両側に幅員がそれぞれ約〇・四メートルの側溝が設けられ、側溝を除いた道路の幅員は五・四三メートルで事故当時センターラインは施こされておらず、非市街地で夜間は暗く一日の車両の交通量は約三〇〇〇台、そのうち大型車が三〇〇台ないし四〇〇台程度であつたこと、右道路は昭和四六年七月頃舗装工事により路面が約〇・四メートル高くなつたものであること、道路の南側の側溝北縁から一メートル南の地点にくるみの木が一本生立し北方即ち国道上に幹を張り出しているが、その幹の道路面からの高さは、道路南端部分において二・五一メートル、南端から北方即ち道路中央部分向〇・七メートルの地点において三・四二メートルないし三・六九メートルであり、その辺からくるみの幹はほぼ垂直に上方に伸びていたことが認められる。

三  前出甲第三号証、甲第四号証の一ないし五、同号証の七、成立に争いのない同号証の六、八ないし一三、丙第六ないし第一八号証、証人星重光、同三浦晧征の各証言及び被告菊地久男本人尋問の結果によれば、被告菊地は、前記一記載の日時場所において、前記のとおり被告車を運転し、川俣町方面から福島市方面に向い時速約三〇キロメートルで西進していたが、被告車には自動車検査証に記載された最大積載重量九トンを一〇トン余超える一九・四九トンの杉丸太を地上からの高さ三・七メートルにまで積載していたのであるから、同被告としては、右積載物の上部を道路上に張り出している樹木等に衝突させることのないよう進路の前方を注視し、安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、進路左側の歩行者の有無等に注意を奪われ、進路前方を十分注視しなかつた過失により、前記二の道路上に幹を張り出したくるみの木に気づかず、積荷の杉丸太又はワイヤーロープの締具を右くるみの幹に衝突させて杉丸太を荷台から崩落させ、折から同所を対向進行してきた訴外俊雄の下顎部辺りに右丸太を衝突させ、同人を頸部安全離折により即死させ、又被告車に後続進行してきた原告三浦運転のマイクロバスに右丸太を衝突させたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

四  進んで被告国及び県の責任の有無について検討する。

前記二認定のように本件道路はアスフアルト舗装された歩車道の区別のないかつセンターラインも施されていない国道であるが、一日の車両の交通量が約三〇〇〇台、そのうち大型車が三〇〇台ないし四〇〇台(前出甲第四号証の七によれば本件被告車の車幅は二・四八メートルであると認められる)程度で非市街地のため夜間は暗かつたこと、本件道路の幅員が五・四三メートルと比較的狭いところに道路傍らのくるみの木が道路上に幹を張り出し、その幹の地上からの高さが道路側端から〇・七メートル中央寄りの地点で道路面から三・四二ないし三・六九メートルに過ぎなかつたこと、右のような道路の状況からして夜間対向車とのすれ違い及びその前後等において道路側端から〇・七メートル以内側端寄りを通行することもありうるところ、自動車の積載の高さの制限は地上から三・八メートルであること(道路交通法施行令二二条三号ハ)、前記二掲記の各証拠によれば本件道路付近に右くるみの木の存在を警告し、注意を喚起する標識等がなかつたことが窺われること、証人冨田秀穂、同半沢栄一郎、同植野定雄の各証言によれば、現に、昭和四九年夏頃福島交通株式会社川俣営業所長から月舘町長に対し右くるみの木について伐採等の善処方を申し入れ、同町長から所轄の保原土木事務所長に申し入れられたことが認められ、これらの事実によれば、本件くるみの木が道路交通の妨害となつたことは明らかであり、これが伐採もされずに存在しかつ注意標識等も設けられていなかつたことは道路が本来そなえるべき安全性を欠いていたものと認めざるを得ない(因みに、本件事故後間もなく本件くるみの木の道路に張り出した部分に発光器が取り付けられ、その後伐採されている)。

そうすると、被告国は右道路の管理者として、又被告県は管理費用の負担者として損害賠償責任がある。

なお被告らの本件道路は道路構造令の適用のない未改良道路であるから管理に瑕疵があるとはいえない旨主張するが、前記認定のような交通量及び昭和四六年に舗装工事された際約〇・四メートル嵩上げされた事実等に鑑みれば右被告らの主張は採用できない。

又被告らは、本件くるみの木は被告大河内の所有であるところ、同被告に再三その伐採方を申し入れたが、同被告がこれをきき入れず、強制的にこれを除去する手段もなかつたのであるから管理に瑕疵はなかつた旨主張するが、国家賠償法二条の営造物の管理の瑕疵は客観的に営造物について存すればたりると解されるので主張自体にわかに左袒し難いのみならず、右瑕疵の意義を主観的に解したとしても、被告大河内に右くるみの木の国道上に張り出している部分を切除させる手段がないものとは解し難く(民法二三三条)、又注意標識を設ける等の措置も講じなかつたのであるから右被告らの主張も採用できない。

五  被告大河内の責任の有無について

成立に争いのない丙第三、第二四号証、証人太斎義郎の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる丙第一号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる丙第二五号証、第二六号証の一、二並びに被告大河内仁一本人尋問の結果(第一回)によれば、旧伊達郡小手川村大字御代田字大平二三番田八畝八歩のもと訴外大河内勝次郎の所有であつたところ、同番の一、八畝七歩と同番の二、一歩とに分筆され、同番の二は大正九年六月二五日上地により内務省が取得し、その頃から土地台帳及び登記簿上道路敷地として登載されていること、本件くるみの木は前記二認定のように本件国道の南側の側溝北縁から一メートル南の地点に生えていること、右二三番の一を取得した被告大河内自身が昭和五三年頃までは右くるみの木及びこれが生えている土地を同被告の所有であると信じており、本件事故直後頃の昭和五一年一月二〇日に保原土木事務所長から本件くるみの木の伐採について承諾を求められこれに承諾を与えており、又昭和五三年四月一三日頃本件道路の拡幅工事のための調査として隣接地所有者の立合いの下に官地と民地との境界を協定した際にも同被告は右くるみの木の生えている土地を同被告の所有地であると認めていたこと、同被告が右くるみの木の生えている地点を前記同番の二の官地であると主張する根拠資料たる丁第二号証の丈量図は必ずしも現地と符合しないものであることが認められ、これらの事実並びに証人太斎義郎の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる丙第一九号証、証人伊藤泰一郎の証言、検証の結果によれば、本件くるみの木は、右官有地である二三番の二ではなく、被告大河内所有にかかる同番の一に生育している同被告所有の樹木であると認められ、被告大河内仁一本人尋問の結果(第一、二回)中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして措信し難く、他に右認定をくつがえすにたりる証拠はない。

而して右くるみの木が道路交通の妨害となつていたことは前認定のとおりであるから、被告大河内は右くるみの木の所有者かつ占有者として右くるみの木の栽植又は支持の瑕疵により生じた損害につき賠償責任があるというべきところ、右くるみの木が本件道路に張り出していたことが本件事故の一因をなしたと認められることは前記認定のとおりであるから、被告大河内も本件損害賠償責任を免れないといわなければならない。

被告大河内は本件道路が昭和四六年に約〇・四メートル嵩上げされたことに危険の原因があり被告大河内にくるみの木の栽植又は支持に瑕疵がない旨主張するが、少なくとも、くるみの木の所有者としての責任については同被告に過失があることを要しないものであるうえ、すでに右路面嵩上げ後五年近くを経過しているのであるから、右被告主張は採用できない。

六  原告渡辺晋七、同啓子の損害

1  前出甲第一号証及び原告渡辺晋七本人尋問の結果によれば、訴外俊雄は原告渡辺晋七、同啓子の間に昭和二九年一一月二八日出生し、本件事故当時は二一歳で福島大学経済学部三年に在学中であり、同人を右原告両名が二分の一ずつ相続したことが認められる。

2  訴外俊雄の逸失利益

成立に争いのない甲第六号証の一ないし三、第八号証の一、二によれば、労働省統計情報部作成の賃金構造基本統計調査によると昭和五二年の全産業男子大学卒の二〇歳ないし二四歳の平均年収は金一六六万五三〇〇円、昭和五三年のそれは金一七三万一一〇〇円であることが認められるところ、前記俊雄は大学卒業後の昭和五二年には右五二年の平均賃金程度の、大学卒業後第二年目の昭和五三年以降には右五三年以降の平均賃金程度の年収を得たものと推定され、又就労可能年数は大学卒業時の二二歳から六七歳まで四五年間、生活費を収入の五〇パーセントと推定するのが相当であるから、以上により同人が本件事故に遭わなかつたならば得べかりし利益を算定し、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して現価を算定すると、左のとおり金一九五一万五四一二円となる。

(1,665,300-1,665,300×1/2)×(1.8614-0.9523)+(1,731,100-1,731,100×1/2)×(23.5337-1.8614)=19,515,421

3  訴外俊雄の慰謝料

右俊雄の年齢、身分、本件事故の態様等を考慮して同人の慰謝料として金七〇〇万円が相当である。

4  前記1のとおり原告渡辺両名は右俊雄の損害賠償請求権を二分の一ずつ相続したものであるから、右原告らが相続により取得した損害賠償請求権は前記2、3の合計金の二分の一ずつである各金一三二五万七七一〇円であると認められる。

5  葬式費用

原告渡辺晋七本人尋問の結果によれば、原告渡辺晋七、同啓子は俊雄の葬儀を営んだことが認められるところ、その費用は経験則上金四〇万円を要したものと推認され、弁論の全趣旨によれば、原告らは右費用を平分に負担したものと認められる。

6  損害の填補

原告渡辺晋七、同啓子が自賠責保険から金一五〇〇万円を受領し、これを各二分の一ずつ原告らの損害額に充当したことは原告らの自陳するところである。

そうすると、右原告らの残損害額は各金五九五万七七一〇円となる。

7  弁護士費用

原告渡辺晋七、同啓子が本件訴訟の提起及び遂行を原告ら代理人弁護士に委任したことは記録上明らかであるが、右弁護士費用のうち各金五五万円は本件と相当因果関係のある損害として被告らにこれを請求し得べきものと認められる。

七  原告三浦の損害

1  前出甲第四号証の八、成立に争いのない乙第二ないし第一八五号証、証人佐藤喜三郎の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証の一ないし六並びに原告三浦晧征本人尋問の結果によれば、原告三浦は前記三認定のとおりマイクロバスを運転中先行の被告車から崩落した杉丸太が右マイクロバスに衝突し、その衝撃により頸部捻挫の傷害を受け、昭和五一年一月一九日から同月二一日まで保原中央病院に通院し(治療実日数二日)、同月二二日から同年八月一二日まで同病院に入院し、同月一三日から昭和五二年八月二三日まで同病院に通院し(治療実日数二〇一日)てそれぞれ治療したこと、しかし担当医師から詐病を疑われたことがあり、昭和五一年四月一〇日頃には退院を勧告されたことがあるなど入通院期間の長い割合に症状は軽かつたことが認められる。

2  治療費

前出甲第五号証の四ないし六によれば、原告三浦は前記保原中央病院に対する入通院の治療費として金一七八万〇七八二円を要したことが認められる。

原告主張のうち右認定を超える部分についてはこれを認むべき証拠がない。

3  入院雑費

原告三浦は前記1のとおり保原中央病院に二〇四日間入院治療したことが認められるが、その間入院に伴なう諸雑費として一日五〇〇円の割合による金一〇万二〇〇〇円を要したものと推認される。

4  休業損害

原告三浦晧征本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証の八によれば、原告三浦は小林土木株式会社に労務者として雇われ稼働すると共に田二反五畝、畑八反歩を耕作していたものであるが、本件事故による前記傷害のため休業を余儀なくされ、右小林土木から得べかりし労務賃を失なつたこと、右労務賃は事故前の三ケ月間で二三万〇三三九円であり、一ケ月平均七万六七八〇円であることが認められ、前記1認定の同人の傷害の部位、程度(入通院状況)からすればその休業期間は昭和五一年一月一七日から一九ケ月間と認められる。

以上によれば原告三浦の休業損害は金一四五万八八二〇円と認められる。

5  慰謝料

前記1認定の原告三浦の傷害の程度(入通院期間)、本件事故の態様等からして同原告の慰謝料は金九四万円が相当である。

6  損害の填補

原告三浦が合計金三〇七万六九八三円の損害の填補を受けたことは同原告の自陳するところであるから、これを前記2ないし5の損害額から控除すると残額は金一二〇万四六一九円となる。

7  弁護士費用

原告三浦が原告代理人弁護士に本件訴訟の提起、遂行を委任したことは記録上明らかであるが、右弁護士費用のうち金一二万円は本件と相当因果関係のある損害として被告らにこれを請求し得べきものと認められる。

八  よつて、原告渡辺晋七、同啓子の被告らに対する本訴請求は全部正当であるからこれを認容し、原告三浦晧征の本訴請求は、被告らに対し各自金一三二万四六一九円及び内金一二〇万四六一九円に対する昭和五一年一月一七日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却するべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、仮執行免脱の宣言は付さないのを相当と認め主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤一男)

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